税金や社会保険料をその月に払いきれない——そんなとき、滞納を放置する前に検討したいのが「猶予」の制度です。差押えや換価(財産の売却)を止め、分割納付に切り替えられる仕組みが法律で用意されています。この記事では、国税の換価の猶予・納税の猶予と、厚生年金保険料等の猶予について、要件・期間・申請の流れを整理します。
納付が難しいときに使える「猶予」は2種類ある
国税には、大きく分けて2つの猶予制度があります。名前が似ていますが、想定している場面が異なります。
- 換価の猶予:税金を一時に納付すると事業の継続や生活の維持が難しくなるおそれがあるときに、財産の差押え・換価(売却)を猶予し、分割納付に切り替える制度です(国税徴収法)。資金繰りが厳しい事業者が使う場面はこちらが中心になります。
- 納税の猶予:災害・盗難、本人や家族の病気、事業の廃止や休止、著しい損失など、法令で定められた個別の事情が生じたときに納付を猶予する制度です(国税通則法)。
どちらも「払わなくてよくなる」制度ではなく、納付の時期をずらし、分割を認めてもらう制度です。免除ではない点はあらかじめ押さえておきたいところです。
なお、地方税(法人住民税・事業税・固定資産税など)にも同種の猶予制度があり、社会保険料についても別枠で猶予の仕組みがあります。窓口はそれぞれ異なるため、滞納が複数にまたがる場合は個別に相談することになります。
換価の猶予の要件と期間の目安
申請による換価の猶予は、国税庁が示す要件のすべてに該当する場合に認められるとされています。主な内容は次のとおりです。
- 納付すべき国税を一時に納付することにより、事業の継続または生活の維持を困難にするおそれがあること
- 納税について誠実な意思を有すると認められること
- その国税の納期限から6か月以内に申請書が提出されていること
- その国税について納税の猶予の適用を受けていないこと
- 原則として、申請に係る国税以外の国税の滞納がないこと
猶予が認められる期間は1年の範囲内で、申請者の財産や収支の状況に応じて、最も早く完納できると認められる期間に限られます。猶予期間内に完納できないやむを得ない理由があるときは、延長を申請できる仕組みも用意されています。
猶予が認められると、財産の差押えや換価が猶予され、猶予期間中の延滞税が軽減されます。軽減後の割合は年ごとに変わるため、実際の金額は所轄の税務署にご確認ください。また、猶予を受ける金額や期間によっては担保の提供を求められる場合があります。
※上記は制度の概要です。要件・期間・担保の要否は個別の事情により判断されます。最新の内容は国税庁および所轄の税務署でご確認ください。
社会保険料(厚生年金保険料等)の猶予
健康保険料・厚生年金保険料等についても、日本年金機構が「換価の猶予」「納付の猶予」を案内しています。考え方は国税と近く、保険料等を一時に納付すると事業の継続または生活の維持が困難になるおそれがあり、納付に対する誠実な意思が認められる場合に申請できるとされています。
- 申請期限:猶予を受けようとする保険料等の納期限から6か月以内
- 効果:猶予期間内の分割納付が可能になり、猶予期間中の延滞金の一部が免除されます
- 延長:猶予期間内に完納できないやむを得ない理由があると認められた場合、管轄の年金事務所への申請により、当初の期間とあわせて最長2年間まで延長できるとされています
相談先は事業所を管轄する年金事務所です。税務署とは別窓口になるため、国税と社会保険料の両方が苦しい場合は、それぞれに相談することになります。
申請の流れと準備しておく資料
おおまかな流れは、国税・社会保険料とも共通しています。
- 納期限と滞納額を確認する:申請期限が納期限から6か月以内のため、どの期分がいつまでに申請できるかを先に整理します。
- 窓口に相談する:所轄の税務署(徴収担当)または管轄の年金事務所に事前相談します。申請前の相談を受け付けている窓口が一般的です。
- 申請書と添付書類を提出する:猶予申請書のほか、収支の状況や財産の状況を示す資料が求められます。国税はe-Taxからの申請にも対応しています。
- 審査・許可:分割納付の計画(各月いくら納めるか)を含めて審査され、許可されると通知が届きます。
- 計画どおりに納付する:計画に沿った納付を継続することが前提です。
準備しやすいのは、直近の試算表または決算書、預金通帳の写し、資金繰り表、売掛金・買掛金の一覧などです。求められる資料は窓口や事案により異なるため、事前相談の際に確認しておくと二度手間を避けられます。資金繰り表がまだない場合は、先に3か月先までの見通しを作っておくと、相談の説明もしやすくなります。
猶予を検討するときに注意したいこと
制度を使ううえで、押さえておきたい点をまとめます。
- 申請期限が短い:納期限から6か月という区切りがあります。放置して督促が重なるほど選択肢は狭まります。
- 免除ではない:猶予はあくまで納付時期の調整です。猶予期間が終われば納付は続きます。返済計画と同じ発想で、事業の収支改善とセットで考える必要があります。
- 他の資金調達への影響:滞納や猶予の状況は、金融機関の融資審査で確認される項目のひとつです。融資も並行して検討する場合は、猶予の申請状況を含めて相談したほうが話が早く進みます。
- 計画どおりに納付できないとき:状況が変わった場合は、放置せず早めに窓口へ相談するのが基本です。
猶予は「時間を買う」制度です。その時間で何を立て直すのかがはっきりしていると、窓口での説明にも説得力が出ます。売上の回復見込み、経費の削減策、入金サイクルの改善など、資金繰りそのものの手当てもあわせて検討したいところです。
よくある質問
Q. 猶予が認められると税金は減りますか?
A. 本税が減額される制度ではありません。猶予されるのは納付の時期と換価(財産の売却)であり、猶予期間中の延滞税・延滞金が軽減または一部免除される扱いです。詳しい取り扱いは所轄の税務署・年金事務所でご確認ください。
Q. 納期限から6か月を過ぎてしまった場合はどうなりますか?
A. 申請による換価の猶予の要件を満たさなくなりますが、税務署の職権による換価の猶予が検討される場合もあります。自己判断で放置せず、まずは所轄の税務署に相談することをおすすめします。
Q. 税金と社会保険料の両方が払えないときは、どちらから相談すべきですか?
A. 窓口が異なるため、どちらか一方だけを相談しても全体は解決しません。納期限が近いほうから順に、税務署と年金事務所の双方に相談するのが現実的です。金額や期限の一覧を作ってから動くと整理しやすくなります。
Q. 猶予中でも融資やファクタリングは利用できますか?
A. 取り扱いは金融機関や事業者ごとに異なります。滞納・猶予の有無を確認する先が多いため、隠さずに状況を伝えたうえで相談するのが基本です。条件は各社により異なるため、事前にご確認ください。
まとめ
税金・社会保険料の猶予は、申請期限が納期限から6か月以内と短く、動き出しの早さがそのまま選択肢の広さにつながります。まずは滞納額と納期限を一覧化し、所轄の税務署・管轄の年金事務所に事前相談するところから始めるのが現実的です。あわせて、公的な融資制度や相談窓口も並行して確認しておくと、猶予期間中の立て直し策を組みやすくなります。

