後継者へのバトンタッチや、他社からの事業の引き継ぎには、思った以上にまとまった資金が必要になります。日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」は、その場面に特化した融資制度です。この記事では、誰が使えるのか、いくらまで借りられるのか、返済期間と金利はどうなるのかを、公庫の公式情報にもとづいて整理します。
事業承継・集約・活性化支援資金とはどんな制度か
事業承継・集約・活性化支援資金は、日本政策金融公庫(日本公庫)が取り扱う融資制度のひとつです。事業の譲渡や株式の譲渡、合併などによって事業を引き継ぐ側と、引き継がれる側の双方の資金調達を支援することを目的としています。
この制度の特徴は、対象が「後継者」だけに限られていない点にあります。現経営者が後継者と一緒に事業承継計画をつくる段階でも使えますし、M&Aで他社の事業を買い取る側、買い取られる側のどちらも対象になり得ます。さらに、承継をきっかけに新しい取り組み(第二創業)を始める場合や、M&A後のPMI(統合プロセス)に取り組む場合も含まれます。
公庫の融資には「国民生活事業」と「中小企業事業」の2つの窓口があり、この制度はどちらにも用意されています。小規模事業者や個人事業主は国民生活事業、規模の大きい中小企業は中小企業事業が主な相談先になります。申込みの一般的な流れは日本政策金融公庫の融資の流れでも整理しています。
対象になるのはどんな人か
国民生活事業の公式ページでは、次のいずれかに当てはまる方が対象とされています。
- 中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者(候補者を含む)と共に事業承継計画を策定している方(融資後おおむね10年以内に事業承継を実施する見込みがあること)
- 安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方、およびその事業者から事業を承継・集約される方
- 経営承継円滑化法にもとづく認定を受けた中小企業者の代表者、認定を受けた個人である中小企業者、または認定を受けた事業を営んでいない個人の方
- 事業承継に際して経営者個人保証の免除等を取引金融機関に申し入れたことを契機に、その金融機関からの資金調達が困難になっている方(公庫が融資に際して経営者個人保証を免除する場合)
- 事業の承継・集約を契機に、第二創業(経営多角化、事業転換、新市場進出)や新たな取り組み、PMIの取り組みを図る方
注目したいのは4番目です。事業承継のタイミングで個人保証を外そうとしたところ、取引銀行との話がまとまらず資金調達に詰まった——という状況が想定されています。公庫側が個人保証を免除する前提で受け皿になる設計になっており、承継時の保証問題に悩む事業者にとっては検討する価値があります。
いずれの区分でも、資金の使いみちは「事業承継や集約のために必要な設備資金および運転資金」に限られます。事業と関係のない支出には使えません。
融資限度額と返済期間
限度額は、国民生活事業と中小企業事業で大きく異なります。
| 項目 | 国民生活事業 | 中小企業事業 |
|---|---|---|
| 融資限度額 | 別枠 7,200万円 | 直接貸付 14億4千万円 |
| 設備資金の返済期間 | 20年以内(うち据置期間5年以内) | 20年以内(うち据置期間5年以内) |
| 運転資金の返済期間 | 10年以内(うち据置期間5年以内) | 10年以内(うち据置期間5年以内) |
| 担保・保証人 | 希望を聞いたうえで相談 | 相談のうえ決定。一定の要件で経営責任者の個人保証が必要 |
※記載の限度額・返済期間は2026年9月18日時点で日本政策金融公庫の公式サイトに掲載されていた内容です。最新の内容は公式サイトでご確認ください。
国民生活事業の「別枠7,200万円」という書き方には意味があります。すでに公庫から他の融資を受けている場合でも、その枠とは別に7,200万円までの相談ができるという整理です。既存の借入があるから無理だ、と決めつける前に窓口で確認する価値があります。
据置期間が最長5年というのも、この制度の使いどころです。承継直後は引き継ぎ費用や人材の入れ替えで支出が先行しやすく、利益が安定するまで時間がかかります。元金の返済開始を後ろにずらせる設計は、その期間の資金繰りを支えます。据置期間の使い方は資金繰り改善の方法とあわせて考えると整理しやすくなります。
金利はどう決まるか
金利は「基準利率」と「特別利率」のどちらが適用されるかで変わります。国民生活事業では、対象区分1・2の方には基準利率、特別利率A、特別利率Bのいずれかが、区分3の方には特別利率Aまたは特別利率Bが、区分4・5の方には基準利率(区分5は特別利率Bも)が適用される、と公式ページで案内されています。
その利率の実際の水準は、公庫の金利情報ページで公表されています。2026年9月1日現在の国民生活事業の数値は次のとおりです。
| 利率名称 | 無担保・税務申告2期終了(年利) | 有担保(年利) |
|---|---|---|
| 基準利率 | 3.80〜5.40% | 2.80〜5.00% |
| 特別利率A | 3.40〜5.00% | 2.40〜4.60% |
| 特別利率B | 3.15〜4.75% | 2.20〜4.35% |
※上記は2026年9月1日現在として日本政策金融公庫の公式サイトに掲載されていた国民生活事業の利率です。融資制度・使いみち・融資期間・担保の有無などによって異なる利率が適用され、金融情勢によって変動します。最新の内容は公式サイトでご確認ください。
幅があるのは、担保の有無と返済期間、そして信用リスクの評価によって適用される値が変わるためです。同じ制度でも、無担保か有担保かで1%前後の差がつく点は押さえておきたいところです。
中小企業事業のほうは書き方が異なり、基準利率からの引き下げ幅で示されています。たとえば事業承継計画を策定している区分では、8億円までが基準利率マイナス0.4%(上限3.0%)、認定経営革新等支援機関などの支援を受けて計画を実施する場合(現経営者が55歳以上の場合に限る)は基準利率マイナス0.65%(上限3.0%)、8億円を超える部分は基準利率(上限3.0%)とされています。支援機関の関与によって引き下げ幅が変わるのは、覚えておくと交渉材料になります。
あわせて使える特例制度
国民生活事業の公式ページでは、この制度と併用できる特例として次の3つが挙げられています。
- 経営者保証免除特例制度 — 経営者の個人保証を不要とする制度。公庫の金利情報ページでは、この制度を利用する場合「各種融資制度に定める利率(上乗せ利率はありません)」と案内されています
- 創業支援貸付利率特例制度
- 賃上げ貸付利率特例制度
個人保証を外したい、というのは事業承継の相談で最も多い論点のひとつです。以前は保証免除に金利の上乗せが伴う設計もありましたが、現在の公庫の案内では上乗せ利率はないとされています。承継を機に保証を整理したい場合は、この特例とセットで相談するのが自然な流れです。
なお、公的な支援は融資だけではありません。承継にあたって設備投資や販路開拓を行うなら補助金の併用も検討できます。制度の違いは補助金と助成金の違いで整理しています。
申込み前に準備しておきたいこと
公庫の公式ページでは、事業承継計画書等は各種書式ダウンロードから利用できると案内されています。相談の前に用意しておくと話が早いのは次のような資料です。
- 事業承継計画書(誰に、いつまでに、どういう手順で引き継ぐか)
- 直近2〜3期の決算書と、直近の試算表
- 資金繰り表(承継にともなう支出の時期と金額が分かるもの)
- 譲渡・株式取得などを行う場合は、その金額の根拠となる資料
- 後継者の経歴や、事業への関与の状況が分かる資料
公庫の公式ページには「審査の結果、お客さまのご希望に沿えないことがございます」と明記されています。制度があること自体は、融資が実行されることを意味しません。事業の継続可能性と返済の見通しをどう示すかが、実際の可否を分けます。
また、承継の相談窓口は公庫だけではありません。各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターや、よろず支援拠点など、無料で相談できる公的窓口もあります。資金の話に入る前に、承継スキームそのものを整理しておくと、融資の相談もしやすくなります。
よくある質問
Q. 個人事業主でも使えますか?
A. 国民生活事業の対象には、経営承継円滑化法にもとづく認定を受けた「個人である中小企業者」や「認定を受けた事業を営んでいない個人」も含まれています。法人に限られる制度ではありません。ただし区分ごとに要件が異なるため、自分がどの区分に当たるかは窓口で確認してください。
Q. M&Aで会社を買う側も対象になりますか?
A. 公式ページの対象区分2では「安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方」と、その事業を承継・集約される方の双方が挙げられています。買い手側も対象に含まれる整理です。株式取得のための資金も、要件を満たせば使いみちに含まれます。
Q. 融資限度額いっぱいまで借りられますか?
A. 限度額は上限であって、保証される金額ではありません。実際の融資額は事業の内容、返済の見通し、担保や保証の条件などをふまえた審査によって決まります。希望額と必要額の根拠を資料で示せるようにしておくことが大切です。
Q. 金利はいつの時点のものが適用されますか?
A. 公庫の案内では、利率は金融情勢によって変動するため、実際の借入金利(固定)は公表されている利率と異なる場合があるとされています。この記事の数値も2026年9月1日現在として公表されていたものです。契約時点の条件は公庫にご確認ください。
Q. 承継の資金を民間の融資でまかなうのとどちらがよいですか?
A. 金利、返済期間、据置期間、保証の条件が制度ごとに違うため、一概には言えません。公庫は据置期間が長めに設定できる一方、審査に一定の時間がかかります。緊急性が高い場合はビジネスローンなど他の手段と並行して比較するのが現実的です。
まとめ
事業承継・集約・活性化支援資金は、承継する側とされる側の双方を対象にした公庫の融資制度です。国民生活事業では別枠7,200万円、中小企業事業では直接貸付14億4千万円が限度額として示されており、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内、いずれも据置期間は5年以内とされています。
ポイントは、承継直後の資金繰りが苦しくなる時期を据置期間でしのげる設計になっていること、そして経営者保証免除特例制度を併用できることです。金利は区分と担保条件によって幅があるため、自分がどの区分に当たるかを窓口で確認したうえで、計画書と数字を用意して相談に臨むのがよいでしょう。
※本記事は2026年9月18日時点で公開されている公的機関の公式情報にもとづいて作成しています。参考:日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」国民生活事業(2026年9月18日確認)、同 中小企業事業(2026年9月18日確認)、日本政策金融公庫「金利情報 小規模事業者/個人事業主の方【国民生活事業】」(2026年9月18日確認)。制度の要件・限度額・利率は変更される場合があり、実際の適用条件は審査結果によって異なります。最新の内容と個別の可否は日本政策金融公庫の各支店窓口でご確認ください。運営者情報は運営者情報、免責事項は免責事項をご覧ください。

